Road to 玉の輿〜親友・ソナの婚活録⑤

黒いシンプルなワンピースにグレーのストール、アップした髪型でソナは某国の大使館に向かった。



シンプルな服装は彼女のスタイルの良さをより際立たせる。自分に似合うものを分かっている人だな、と私はソナを見送りながら感心した。


その日の私はエビちゃんファッションだが、予定は漫画喫茶でコーヒーをがぶ飲みしながらクロサギを読むだけである。自分に似合う服も、婚期も何一つ分かっていない感がすごい。


彼女の友人が大使館で働くインド系欧米人と親しくしており、その縁でお茶会に招かれたのだった。



お茶会には日本人政府関係者、商社マンも幾人か招かれていたが、彼女は外国人職員狙いだ。沖縄の基地近くで育ち、親御さんが米兵がよく来店するレストランを経営しているソナの英語がネイティブ並みで、これも一つの強力な武器だった。



友人の友人であるインド系欧米人の大使館職員(以下、仮名でアブドゥルと呼ばせて下さい)は、ソナの美貌とスタイル、日本人らしからぬ流暢な英語に驚嘆した。二人は一時間近く隣で話し込んだ上、次週は恵比寿のバーに行く約束をしたのだった。



ソナ👩「で、豚子の収穫は?」


私🐷「クロサギなら10巻まで読めたけど」



ソナ👩「違う!!あんた、今が一番若いのよ!24歳だよ!これから3年間位良い男を選んで、やっと30前に結婚できるんだよ。今男と付き合わないと、30になったらマシな男が周りに居なくなるよ!」



私🐷「私はソナと違って絶対に結婚したいってわけじゃないし、漫画とゲームしてる方が楽しいから。」



ソナ👩「ふーん。こんな若い時に彼氏の一人もずっと作れなくて、5年後に相談してきても知らないよ」



私🐷「漫画喫茶でナンパしてきた人がいたけど、そういう人と付き合えばいいかな?」



ソナ👩「いや、それはダメ‥漫画喫茶やパチンコ屋で出会う人とかダメだから‥」



ソナはアブドゥルとバーに行く日は、ニットにジーンズとカジュアルダウンした。


ソナ👩「いつもパーティみたいな格好してる女だと思われたくないからね。場所に合わせてみた」



私🐷「ソナ、一応アブドゥルの資産や、既婚じゃないかにも探りを入れた方が良いと思うな。大使館のプロパーじゃなくて現地職員はエリートではないから。」



ソナ👩「大丈夫だって!豚子の方が仕事とか優秀だけどさ、私の男を見る目と経験値は豚子よりあるもの!」


‥フラグが立った予感。(続く)

Road to 玉の輿~親友・ソナの婚活録④

ここは渋谷の某スペイン料理店。ソナはサングリア(適当)を飲みながら、自分に言い寄ってくる大学時代の知人・都筑慶三(仮名)が連れてきたメガバンクの先輩である月野寒太(仮名)を観察していた。



ソナ👩「都筑くんも、月野さんもワイン好きなんですね~。3人で一本何か頼みません?」



ソナ👩(月野氏、身長は172㎝ほど、普通体型。スーツはオーダーかな?そこそこ良質な生地だけど嫌みがない。物腰も柔らかいけどフレンドリーで、いかにもやり手な営業マンだな。)



都筑はとにかく自分と出かけようと誘ってくるが、月野はニコニコしながらソナと都筑の会話を聞いており、余裕がある。


ソナ👩(本店勤務だって言うし、昇進組だな。私の玉の輿相手リストに入れとこう)



しかし、一つ問題があった。色白で彫りのごく浅い平たい顔面。彫りが浅くとも美形というタイプもいるが、そうでなく明らかに整っていない月野の容貌はソナの好みととことん対称的だったのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

私🐷「なのに、連絡先交換したの?分からないな~。もっと分からないのは都筑くんが何でその人を連れてきたかだけど。」


ソナ👩「盛り上げと引き立て役に使えると思ったんじゃない?でも、都筑くんは対人関係の要領良くないし、私と他の女の子への態度が露骨に違うから。私にとっては月野さんより有り得ない。」



ソナ👩「豚子、あなたは好みじゃない人は1回で切るかも知れないけど、その相手から新しい人間関係が広がる可能性もあるよ。それに数年後、その人がタイプになるかも知れないし。絶対無いと思わない限り知人として繋がった方がいいと思うよ。」


私🐷「フーン」(10体目の巨像と苦戦中)


ソナ👩「……来週は○○大使館勤務の友人が招待してくれたパーティにいくね。」

                   (続く)

Road to 玉の輿~親友・ソナの婚活録③

翌週明けの夕方。ソナの部屋には服という服が積まれていた。私が呆気に取られていると、ソナはまなじりを上げて決意の強そうな表情をこちらに向けた。



ソナ👩「子供っぽいデザインや、安い生地や穴だらけのデニムなんかは全部捨てる。手伝って。欲しいものがあったら持っていって。」



私🐷「あなたの服、細すぎて私が着られるわけがないよ。もったいない~💦フリマで売れば?」



ソナ👩「捨てる方がさっぱりするし、運気も変わるよ。営業ウーマンみたいなカッチリ服か、恵比寿のピアノバーや、オペラを見に行けるような服しか残さない。貧乏人と居たら不自然な雰囲気を作る。」




私は思わず、自分が着ている楽天の激安カジュアル服サイトで買った2900円のワンピースをまじまじと見てしまった。確かに私に寄ってくる男性は二留中の学生とかフリーターとかばかりだ。


私🐷(でも私は婚活してるわけじゃないし……)



とりあえず現実から目をそらしておいた。



ソナは夜までに手持ちの服の6割を捨ててしまい、シンプルなワンピース、ドレープのある上品なカットソー、膝下丈のタイトスカートやストールなど、モノトーンかベージュの服を残した。



ソナ👩「これで、部屋も私の雰囲気もさっぱりした。さて、と。」



次に彼女はガラケー(2006年だから)を取りだし、おもむろにメールを打ち始めた。


ソナ👩「ずっと言い寄ってきてる大学時代の知り合いが居てさ。サシで飲むのは嫌だけど、今回はメガバン勤務の先輩も一緒にどうかって誘われたから、人脈作りに行ってみる!豚子もどう?」



私はジャージに着替え終わり、「ワンダと巨像」の5体目の巨像に苦戦しながら「え?何か言った?」と聞き返した。


ソナ👩「何でもないわ。忘れて。」


                  (続く)

Road to 玉の輿~親友・ソナの婚活録②

さて、2006年の1月頃からこの話は始まる。時系列的にはこのすぐ後位だろうか。


https://kisaragi232.hatenablog.com/entry/2018/12/19/185731



日曜の夕方。同居人であるソナは、もうすぐ彼氏との旅行から帰ってくる。私は彼女のためにホットケーキを焼き、紅茶を入れる準備をした。



ドアが開き、憔悴した顔のソナが小さくただいま、と言いながら入ってきた。すらりとしたスタイルのソナが、旅行前と比べてもなお痩せている。



私🐷「ソナどうしたの?お腹でも壊した?」


ソナ👩「豚子……私もうあの人とはダメだわ。旅行は完全割り勘でジュース一本も奢ってくれないし、話しかけても素っ気ない返事で前と全然違う」



私🐷「それは久しぶりに付き合うし、よりを戻したばかりだからじゃないかな?」



ソナは18歳から21歳まで付き合っていた医大生の元彼と、24歳になった最近復縁したのだった。



ソナ👩「いーや、違うねっ。だって私を見る目がすごく冷めてるもん。しょっちゅう時計見てるし。大体5歳も上の男が、しかも医者が一円単位で割り勘にする?」


私🐷「えっ、私なんか復縁どころか、付き合ったばかりの子にも割り勘にされてたよ」(自分が不憫)



ソナ👩「それは豚子が、同い年や年下がターゲットだし、お金のない子とも付き合うからでしょ。私なら絶対無いような人ばっかり。」



私🐷「……敢えてここで恋愛志向で言い争うのは止めよう。本題を追及しないと。彼氏はなんでそんな冷めてんのかね?復縁したがったのは向こうじゃないの?」


ソナ👩「ううん、私だよ。彼としか付き合ったことなかったし、他の人が気になって別れたんだけどさ。その他の人は伸び盛りのゲーム会社の社員だったのに無職になるようなダメ男だったから、やっぱり彼がいいと思って連絡したんだけどね。」



今のセリフでソナにつっこみたいところは色々あるが、取り合えず対策を考えよう。


私🐷「あー……そこで彼氏は一度冷めちゃったかもね。ソナが前と変わったところを見せれば良いんじゃない?新しい魅力でリトライって言うか」



ソナ👩「ううん。一度ダメになった人を追っても無駄。復縁したばっかりだけどまた別れるわ」



私🐷(早いな。そして、むしろ彼氏振り回されて気の毒だな)



ソナ👩「そして、今日でもう決めた。そろそろ収入の高い人と結婚するために動き始める!」



私🐷「あ、ソナってそういう志向の人?」(⬅あからさまにそうだろ。もっと早く気付け)



ソナ👩「明日から服や行動を一切変える!見てて豚子!」


ソナの変身ぶりは次回に乞うご期待!(続く)


【※今回の教訓】

一度ダメになった人は、どちらから別れたにせよ自分から追わないこと。

Road to 玉の輿~親友・ソナの婚活録①

Twitterでは毎日呟いてますが、ブログの方ではお久しぶりです。



唐突ですけど……私ね、自分の婚活をきっかけに10年位、色々な婚活ブログを読んでるんですよ。



全く教養の無さげな下世話な趣味だし、結局婚活は成功せずに適当に知り合った夫とダラダラ付き合って結婚したので、全然婚活ブログが参考になってなかった気がするんですが(-.-)



しかし、読んでいると私や私の友人がうら若く、20代半ば~後半の独身だった頃(※大昔じゃないか!)と今では世情や結婚しやすさが全然違って、今の婚活はハードモードだなあと思いますね。結婚したい人はどんどん減っていますし。



そして、女性の地位が何だか低くなっている気もします。大したスペックや人格じゃない人に、普通の条件の女性が頭を下げて「結婚して頂いている」って感じというか。



婚活ブログあるあるな、既婚の読者が上から目線でアドバイスしてくるコメントも、「そこまで譲歩するなら独身でいた方が良くない?」と思うほどだったり。



私達、現在35~42歳位の氷河期ラスト世代も、バブル時代の女性より男性に対してずっと腰が低いと思うのですが、それよりもなお今の若い女性は遠慮している気が……。



私の親友・ソナは的確な婚活の末に年収2000万円代のエリートリーマンと結婚しています。彼女の対男性術には感心するところがあったので、備忘録として書いていきたいと思います。



何故ソナと命名したかというと、ユンソナに似てるからだったけど私ユンソナチェ・ジウを取り違えていた。チェ・ジウに似ています💧でも、このブログではずっとソナなので、もうそれで。




ただ、彼女は収入の低めな男性やモテない女性に対して批判的だったり馬鹿にしたりする性格なので、読んでいて腹が立つことがあるかも知れません。


(なんか嫌な女みたいに書きましたが、良いところも沢山あるんですよ!)


更新はゆっくり目になるかも知れないですが(^^;

ある日系人青年の死④(終)

震災の年か、その前年くらいだろうか。待遇が良くないながらも真面目に某NPOで働いていた小杉氏は、20代の終わりに差し掛かっていた。同僚の女性と付き合いだしてから2年ほど経ち、結婚願望の強い彼は具体的に結婚を考え始めた。



当時、彼女と結婚式場を巡る彼を同じく結婚願望の強い弟が羨ましがっていた。



私🐷「小杉さんももう28か9だもんね。あなたはまだ結婚しないの?」



弟👨「僕も彼女も25歳なので、まだ早すぎるから3年待ちなさいと向こうの親御さんに止められました……」



私🐷(女性側から【若すぎる】を理由に延期されるって珍しいよね。延ばせばもっといい男が現れると思われてるよ💧)



この時の会話から、小杉氏はとうに結婚していると思っていた。だが、この彼女とは結婚せずに別れたのだった。小杉氏の収入が低いこと、日系人であることが彼女の親には気に入られなかったのだ。



その話を聞き「収入が低いというが、彼女だって小杉氏の同僚だし同じ位の金額ではないのか💢💢日系人家系にしたって、二人の勤務先は外国人差別の啓発のためのNPOなのに意識が低すぎる……💢」と他人様のことながら腹が立った。



いずれにせよ彼女と別れてから、もともと多かった小杉氏の酒量は更に激増していった。しかし彼はまだ若く、長らく健康体だったので心身に不調が現れてもなかなか病院へは行かなかった。



いよいよ体調が悪くなり、通院し始めた時期には取り返しのつかない病状になっていたという。



今にして思うがいつの時点なら、公的なサポートや大人からの精神的な援助で小杉氏を助けられたのだろう。



中学生で来日した時?大学進学ができなかった時?20代前半で転職していれば違う展開があった?



彼の両親は自分達も慣れない日本で、むしろ長男である彼を頼っていた。彼はまだまだ子供の頃から、親に甘えて頼ることが出来なくなったのだ。



日系人や外国人児童へのサポートは90年代当時は充実していなかった。いや、現代も激増する児童数に対応できていないのだが。



高等教育や心理学のプロからの、助言や見守りがあれば。……今更、後付けで考えても仕方がない。



享年は35歳か6歳だろうか。私は彼の誕生月を知らない。弟の友人で、たまに家に遊びに来る子。その程度の関係性だからだ。



彼と同い年の私は自分のことを35歳から「中年」だと認識している。だが30代半ばの死は、中年男性の死というにはあまりに若すぎる。



今回初めてその死を知って彼のことを想起してみたが、私が思い出せたのは20歳になるかならないかの少年と言ってもいいような姿だった。



よく話を聞いてはいても、それ以来実際に見かけたことはなかったのだ。少年の姿で覚えているから、余計に痛ましく感じるのかも知れない。



親しくもなかったし、もう少し接点があったとしても彼の人生の何かが変えられたような力が自分にあるとは思えなかったが……それでも自分の無力さを感じながら私は帰路についた。(了)

ある日系人青年の死③

20歳で高校を卒業した小杉氏は更なる進学を考えていたが、彼は4人兄弟の長男である。末のきょうだいはまだ幼稚園に通うほどの年齢だった。



これから3人の子供を少なくとも高校までは卒業させなければならない。両親にはとても、長男の彼を大学なり専門学校までやる余裕はなかった。どころか、下のきょうだい達のために就職して家計を助けなくては生活が回らなかったようだ。



小杉氏は就職活動を始めたが、時は2002年。空前の就職氷河期だ。若いとは言え、少し引っ込み思案な性格でさしたる資格もコネクションも持っていない彼の活動は難航した。



この頃も小杉氏は時々私の実家を訪れ、弟と会話していたらしい。私はもう実家にたまにしか寄り付かなくなっていたので当時の小杉氏の記憶はないが。



2005年頃、弟から彼があるNPOの職員になっているが、営利団体ではないので収入がかなり低いとぼやいている、と世間話の一環として聞いた。



私🐷「なら転職しちゃった方が良いよね。最近景気良くなってきたじゃん。私も新卒で入った薄給ブラック企業から転職できたし」



弟👨「でも、かなり厳しい就職活動の後に友人の紹介でやっと入れた職場だから、恩義を感じてて辞められないんだって。」



私🐷「小杉さん、そういうとこあるよね。よく言えば善人だけど、悪く言えば要領良くないって言うかさ。もう3年も働いたんだから良くね?」



弟👨「お姉ちゃんの世界観はシビアだね……僕は小杉さんのそういう善良なところが好きなんですよ」



弟に何かアドバイスしてもどうせ小杉氏には届かないし、弟がしばしば私を悪人扱いするので、もう相談には乗らないことにした覚えがある。



今ではそれを後悔している。私ごときに彼の人生を変えるような力があるとは今でも思えないが、この職場もまた、彼を死に追いやった原因の一つだったから。

                   (続く)