ある日系人青年の死③

20歳で高校を卒業した小杉氏は更なる進学を考えていたが、彼は4人兄弟の長男である。末のきょうだいはまだ幼稚園に通うほどの年齢だった。



これから3人の子供を少なくとも高校までは卒業させなければならない。両親にはとても、長男の彼を大学なり専門学校までやる余裕はなかった。どころか、下のきょうだい達のために就職して家計を助けなくては生活が回らなかったようだ。



小杉氏は就職活動を始めたが、時は2002年。空前の就職氷河期だ。若いとは言え、少し引っ込み思案な性格でさしたる資格もコネクションも持っていない彼の活動は難航した。



この頃も小杉氏は時々私の実家を訪れ、弟と会話していたらしい。私はもう実家にたまにしか寄り付かなくなっていたので当時の小杉氏の記憶はないが。



2005年頃、弟から彼があるNPOの職員になっているが、営利団体ではないので収入がかなり低いとぼやいている、と世間話の一環として聞いた。



私🐷「なら転職しちゃった方が良いよね。最近景気良くなってきたじゃん。私も新卒で入った薄給ブラック企業から転職できたし」



弟👨「でも、かなり厳しい就職活動の後に友人の紹介でやっと入れた職場だから、恩義を感じてて辞められないんだって。」



私🐷「小杉さん、そういうとこあるよね。よく言えば善人だけど、悪く言えば要領良くないって言うかさ。もう3年も働いたんだから良くね?」



弟👨「お姉ちゃんの世界観はシビアだね……僕は小杉さんのそういう善良なところが好きなんですよ」



弟に何かアドバイスしてもどうせ小杉氏には届かないし、弟がしばしば私を悪人扱いするので、もう相談には乗らないことにした覚えがある。



今ではそれを後悔している。私ごときに彼の人生を変えるような力があるとは今でも思えないが、この職場もまた、彼を死に追いやった原因の一つだったから。

                   (続く)