文化大革命の記憶~「三好学生」~上

私の出身大学・学部では非常に語学講座が充実していて、東南アジア某国の歴史を勉強しながら、中国語の各種講義も履修できた。おかげで上申書など、入管に提出する資料程度ならラクラク翻訳できるようになり仕事に役立った。



だが2011年の震災以降就業や留学で来日する中国人は激減し、中国語を遣わなくなってから8年近くが経つ今、私の中国語レベルは悲惨な程低下している……今や日常会話すら怪しい。



これではいけない、と大学時代の「中級中国語」講座のテキストを引っ張りだしてみたところ、担当講師のW先生に関する悲しい思い出が蘇った。



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W先生は、おそらく北京出身だったと思う。2002年当時で50歳代と思われる知識階級出身の男性で、30年前に留学で来日してからずっと日本で中国語講師をしておられたそうだ。




当時、旧帝大の国立A大学、上位私立大学のB大学(我々の大学)、中堅私立大学のC大学で教鞭を取られ、授業時間後に研究室で個別に指導して下さる位に教育熱心だった。



よく「B大学の皆さんは予習復習も熱心な上、質問も多くて優秀ですねえ。C大学の学生さんはこんなにやる気がないですよ」と、我々とC大学生を較べてはC大学をディスっていた。「これはきっと、A大学では『皆さんはB大学より優秀ですねえ。』と我々を貶しているに違いないw」と仲間内では苦笑しながら話し合っていたが。



ある日、中国の学校では軍事教練の時間があるという話題になった(中身は日本の体育より緩いらしい。日本の体育こそ軍事教練そのものだと(-.-))




W先生👨「中国では勉強だけでなく、肉体も健康でないと良い学生と評価されないのですよ。」



私🐷「そういえば、優秀な学生を指して三好学生と言いますよね。(※四好の場合も。この"好"は好き嫌いでなく、良いの意)成績好、身体好、あと1つは何ですか?」


W先生👨「……思想好、です。」



W先生の表情がふと翳った。急に悲しげな声になり、続けてこう言った。



W先生👨「私は三好学生ではなかった。思想が悪いと判断されたからです。何故なら……」



先程まで和やかな雰囲気だった教室は一変した。講座の受講者、15名の学生は静まりかえってW先生の次の言葉を待った。(続く)